フードディフェンス」について、2度(2014年1月10日→http://kimuratokyo.doorblog.jp/archives/2014-01-10.html、同月20日→http://kimuratokyo.doorblog.jp/archives/2014-01-20.html)にわたり記事を書いてきました。

今日は、この度のアクリフーズ社の「フードディフェンス」が崩壊した後、同社が対応策としてとった回収が思ったように進まない現実に着目してみました。この点について、世間ではあまり語られていない気がしましたので、消費者の視点から、なぜ回収が思ったように進まないのかについて述べたいと思います。


■ 食品衛生法はどう規定しているのか

消費者庁のWebサイトをみると、以下のような記述があります。


まず、「食品衛生法に基づく表示基準は、原則として『製造所の所在地』及び『製造者の氏名(法人にあっては、その名称)』の表示を義務づけてい」ると。

つまり、消費者庁は、食品メーカーに対し、食品のパッケージには、原則として、「製造者名」を表示しなさい、と言っています。
これは、「アクリフーズ社・冷凍食品問題」でいえば、冷凍食品のパッケージには、原則として、当該冷凍食品を現に製造している「株式会社アクリフーズ 群馬工場」という名称を書きなさい、というものです。

続けて、「食品衛生法に基づく表示基準」によれば、
「自社工場(製造所)が多いが、表示には本社の名称、所在地を記載する場合」(①)や「製造を他社工場(製造所)に委託している販売者が、自社の名称、所在地を表示する場合」(②)などには、「表示面積の制約等の理由から例外的に、予め消費者庁長官に届け出た製造所を表す記号(製造所固有記号)をもって表示することができ」ると。
つまり、消費者庁は、食品メーカーに対し、製造を他社工場(製造所)に委託している場合などには、大手小売店などの「販売者」が、自社の名称等を食品のパッケージに表示すれば(上記②)、例外的に、「製造者名」を表示する必要はなく、「製造所固有記号」を表示すれば足りる、と言っています。
これは、、「アクリフーズ社・冷凍食品問題」でいえば、PB(プライベート・ブランド)商品を販売するイオンや西友などの小売店が、「イオン」や「西友」と書けば、当該冷凍食品を製造する「株式会社アクリフーズ 群馬工場」という「製造者名」を表示しないことを、例外的に、認めますよ。その代わりに、行政に届け出たコンパクトな記号(例えば、「J598」など)は表示しておいてね、というものです。


■ 食品パッケージには問題がないのか

上記のような決まりごとがあることから、「フードディフェンス」が崩壊した後、対応策としてとられる回収という手段において、まず、「株式会社アクリフーズ 群馬工場」という名称が食品パッケージに表示されている商品を回収することが手っ取り早いでしょう。原則的パターンの方ですね。
この原則的パターンの表示であれば、例えば、「株式会社アクリフーズ 群馬工場」で製造された冷凍食品に農薬が・・・という報道が大きくなされた場合、消費者は比較的容易にその危険に気付くでしょう。
つまり、消費者が気付きさえすれば、回収は比較的容易です。

しかし、消費者が買った冷凍食品が、PB(プライベート・ブランド)商品として販売されていて、かつ、例外的表示パターンである製造所固有記号を表示している商品だとすれば、例えば、「株式会社アクリフーズ 群馬工場」という表示が無いのだから、消費者がその危険に気付くには、ある程度時間を要する。
つまり、迅速な回収は困難であり、回収にある程度多くの時間を要することになるでしょう。

実際、回収対象商品が50品目以上に及んでいることを考えると、製造工場名が記載されているもの・ないもの、もうまちまちですから、消費者は困ってしまいますね。

このように考えていくと、食品パッケージに製造所固有記号を表示する例外的パターンを採用することは、緊急事態発生時、回収が遅れる→消費者を危うくするおそれがある、とみることができそうです。気付くまでの間に、被害が拡大・深刻化することも考えられます。

売り手のメーカーと監督官庁。つまり、立場は違えど、プロとプロ同士だけが理解しあえる記号(例えば、「J598」など)を用いて食品パッケージに表示している。
そう、消費者は蚊帳の外にいるのです。
「J598」って書かれても、一般の消費者にとっては、なんのこっちゃら?という感じですよね。
本来、まずは、商品を購入し口にする消費者にとって分かり易い表示であるべきではないでしょうか・・・


■ 法整備の課題

上記のような問題点があることから、今後は、このあたりの法改正が必要になってくると考えます。

日本の食品表示に関しては、皆様もお気づきの通り、複雑さ・わかりにくさゆえに(情報量が多いこと自体はよいことだと思います。)、なんとかしなければという動きがあります。これまで以上に消費者の視点に立ち、まさになんとかしていただきたいものですね。

ちなみに、消費者庁が担当している制度だけでも、

①飲食に起因する衛生上の危害発生を防止することを目的とする「食品衛生法」
②原材料や原産地など品質に関する適正な表示により消費者の選択に資することを目的とする「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)」
③栄養の改善その他の国民の健康の増進を図ることを目的とする「健康増進法」
があります。

これらの法律をどう整理・統合・融合していくのか。今後の課題に注目したいと思います。

ご興味・ご関心のある方は、現在消費者庁が一所懸命取り組んでいる「食品表示一元化検討会」における議論をチェックしてみてください。
http://www.caa.go.jp/foods/index12.html