「相続」業務と人の「死」は、言うまでもなく、密接不可分の関係にあります。
「尊厳死」という言葉を「エンディングノート」などで目にする機会も増えてきたかと思います。
この「尊厳死」という言葉と似て非なる言葉があります。それが、「安楽死」です。
この「安楽死」に関する大きなニュースが海外から飛び込んできました。
ベルギーで、18歳未満の子どもにも「安楽死」を認める法案が国会・下院議会を通過(賛成多数で可決)、というものです。上院議会では、既に通過済みですので、あとは、国王の署名を待つだけとなりました。
以下において、「安楽死」とは何か。そして、「安楽死」を取り巻く状況などをみていきましょう。
■ 「尊厳死」(death with dignity)と「安楽死」(enthanasia)
まずはじめに、日本では、「尊厳死」と「安楽死」は、現在法律によって明確に定義されておらず、よって、その意味は、下記のものに限られるものではありませんので、予めご了承ください。
「尊厳死」とは、人間としての尊厳を保って、患者の意思に基づき延命治療を中止することにより死期を迎えること、又はそのようにして達成された死をいいます。
「安楽死」とは、患者の苦痛を長引かせないため、人為的に死期を早めること、又はそのようにして達成された死をいいます。
「安楽死」は、さらに、「積極的安楽死」と「消極的安楽死」に区別することができます。
「積極的安楽死」は、医師が薬物を使うなどして死期を早めること、又はそのようにして達成された死をいいます。
「消極的安楽死」は、医師が延命治療をしない〔中止する〕ことにより死期を早めること、又はそのようにして達成された死をいいます。
■ 日本における裁判例
日本では、「積極的安楽死」は、法律上認められていません。刑法上、殺人罪の対象となり得ます。
日本における「積極的安楽死」に関する裁判例としては、「東海大学安楽死事件」(横浜地裁平成7年3月28日判決)があり、塩化カリウム等の注射をした被告人(助手)を有罪としました(殺人罪。懲役2年、執行猶予2年〔確定〕)。
同事件において、横浜地裁は、「積極的安楽死」として許容されるための4要件を示しました。
①患者が耐え難い肉体的苦痛に苦しんでいること(精神的苦痛は除外される)
②患者は死が避けられず、その死期が迫っていること
③患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、他に代替手段がないこと
④生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること
これら4つの要件をすべて満たさなければならないところ、同事件においては、満たしていないことから、有罪判決となりました。
■ 「積極的安楽死」を法律上認めている国
次の通りです。
・スイス
・アメリカ(オレゴン州)
・オランダ
・ベルギー
・ルクセンブルク
■ 世界初
前述のベルギーにおける法案は、正確には、成人には認められていた「安楽死」について、年齢制限を撤廃し、子どもにも認める法改正案が可決したというものです。
ベルギーより先に安楽死を認める法律が成立しているオランダでも、12歳以上が対象です。法律で年齢の制限をなくすのは、ベルギーが世界で初めてということになります。
ただし、未成年の場合、
・将来治る見込みがないこと
・耐え難い苦痛を受けており、死期が迫っていること
・子どもに判断能力があること(安楽死の意味を理解できること)
・子どもが文書で明確に希望していること
・親(保護者)の同意があること
・主治医の同意があること
などが要件となっており、容易に認められるものではないようです。
■ 感想
上述の内容からお分かりの通り、日本とベルギーとでは、「安楽死」に対する法制が異なります。
これは、「死」に対する国民意識の違いからくるものと考えられるため、一概にどちらが進んでいてどちらが特異なのか、決め付ける訳にはいきません。ただ、ベルギーの場合、日本と比べより積極的な議論が国民レベルで正面からなされているといえそうです。その一方で、ベルギーの場合、下手をすると、一部で、事実上、子どもの自殺の権利を認めてしまうことにもなりかねません。
「子ども安楽死法」 ベルギーで世界初! といっても、まだ施行が決まったわけではありませんし、遠いヨーロッパの話ではありますが、この法律が施行されたら、その運用について注視していきたいと思います。