「配偶者居住権」等に関して、1月17日の大手新聞各社(日経、朝日、毎日、読売など)が大きく取り上げました。16日、 高齢化社会に合わせ民法の相続編の見直しを議論してきた法制審議会の民法(相続関係)部会(部会長は尊敬する大村敦志先生)は、民法改正要綱案をまとめました。政府は22日招集の通常国会に民法改正案を提出することになりそうです。成立すれば、相続制度に関する大幅改正は約40年ぶりとなります。
それでは、まず、相続制度のどこが見直されるのかについて見て行きましょう(※以下、特に注目すべき改正点に限って説明します。)。ただ、その前に、イメージしやすくするために、簡単な状況設定をしておきます(※大手新聞各社のほとんどが設例において同じ数字を用いていますので、当ブログでは数字を変えています。)。そして、新聞記事の内容・文言をもう少し噛み砕いてみます。新聞記事でいくつか「行間」を読み取れなかった方も、スイスイ読み進めることができるようにしましたので、どうぞご安心ください。
[設定のイメージ(例)]
・夫が妻より先に死亡
・残された家族(法定相続人)=夫と同居していた妻1人、別居の娘1人
・夫が遺したもの=自宅(の評価額):4000万円、その他の財産(預貯金):6000万円
・遺言書なし
〈現行制度〉
現行の民法(第五編「相続」)では、遺産分割について、遺言がない場合において法定相続人が配偶者と子であるときには、各相続分は2分の1であると定めています。つまり、配偶者が2分の1を相続し、残り2分の1を子どもの人数分で分けると定めています(900条1号、4号)。
↓
上記例でいうと
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(自宅4000万円+預貯金6000万円)× 1/2 = 5000万円
↓
したがって
↓
相続分(取り分)は、妻:5000万円、娘:5000万円 となります。
なるほど、一見問題なさそうに見えますが、問題となるケースが少なくありません。
以下、現行法と改正要綱案を対比させながら説明します。
1.遺産分割における配偶者保護について(1)
(→「配偶者居住権」について)
現行制度下でも相続が発生した場合、配偶者(例:妻。以下、同じ。)が自宅(建物)の所有権を取得し住み続けることはできますが、その建物の評価額が高額となれば、配偶者(妻)は他の相続財産(例えば、預貯金)を十分に取得できないケースがあります。つまり、配偶者(妻)が自宅を売却せず自宅に住み続けることを娘と話し合って決めた場合、取り分(5000万円)の多くが建物の評価額(4000万円)で占められ、夫から相続した預貯金は妻の取り分の割合としては相対的に少なくなります(1000万円)。ちなみに、娘には家は残りませんが、父から相続した5000万円を手にすることになります(自分のためにマンションを購入することもできますし、生活費の心配も当面ないでしょう。)。老後の長い生活を考えた場合、苦しくなる可能性があります。このように、現行の民法の下では、残された高齢配偶者の生活の困窮に繋がるとして問題とされていたところです。
これに対して、改正要綱案では、残された配偶者(妻)が家に住み続けられる「居住権」なる新たな権利を選択すれば、他の財産(例えば、現金・預金)の取り分が実質的に増加することが見込めることになります。同じく、上記[設定のイメージ(例)]を用いて見ていきましょう。
〈改正要綱案での例〉
仮に、評価額4000万円(上記の通り。)の自宅の「居住権」が2000万円と評価された場合には、次のような計算がなされます。
不動産評価額4000万円の自宅=居住権評価額2000万円+所有権評価額2000万円
↓
預貯金6000万円 × 1/2 =3000万円
↓
したがって
↓
相続分(取り分)は、
妻:居住権2000万円+預貯金3000万円=5000万円
娘:所有権2000万円+預貯金3000万円=5000万円
妻も娘も各5000万円であることは現行法と変わりはありませんが、取り分の内訳とその金額が変わってきます。
これにより、配偶者(妻)の生活資金を確保することができる一方、自宅の所有権を子(娘)が持つことになっても、配偶者(妻)は、「居住権」を根拠に、特段期間を定めなければ、自身が亡くなるまで今の自宅に住み続けることができます。これが、改正で創設されることになる、いわゆる「配偶者居住権」です。
ひとまず、ここまでいかがでしょうか。
今回は、改正要綱案の目玉である「配偶者居住権」についてみてきました。
次回は、「配偶者居住権」以外についてみていきます。
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