在留資格(「ビザ」)取得要件緩和により、海外からの外国人材が調理師や通訳などとして日本で働きやすくなりそうです。内閣府は、訪日客急増に対応するため、調理師や通訳などのサービス業に従事する外国人が東京などの国家戦略特区で働きやすいようにする、と日経新聞も先日報じています。当ブログの本記事に関しては、ビザ申請取得代行をしている法務事務所の入管申請取次行政書士として、新聞には載らない行間についても解説するというスタンスをとっています。簡潔な制度解説や構造上の視点も加味していますので、ぜひお読みいただければと思います。

■ 訪日外国人増による人手不足

政府は当初訪日外国人2000万人(年間)を目指すことを国家戦略としていましたが、昨年政府が策定した『明日の日本を支える観光ビジョン』の中で、新たな目標値として、当初の2倍である訪日外国人4000万人(年間)を目指すとしています。
このような流れの中で、2016年の訪日外国人は2403万人と当初目標値を超え過去最高を更新しました。訪日外国人増(急増)→一部のサービス業(飲食業、宿泊業など)で人手不足が加速、という現象が続いています。
益々加速するであろう人手不足に対応するため、やはりビザ取得の要件緩和という手を打ってきたか、という感じです(予想通りです。)。
当事務所でも飲食業の経営者の方々と各種業務のサービスを通じて接することが多いのですが、概して、人手不足は深刻な問題です。こういう現状を政府もようやく(本気で?)考え始めたのかもしれません。

では、現状として、飲食業・宿泊業では、どれだけの人手不足なのか見てみましょう。
厚生労働省が2017年1月31日に発表した(2016年12月までの年平均)最新の有効求人倍率は全体で約1.36倍であったのに対し、飲食業・宿泊業では居酒屋調理人や外国料理の調理師などといった飲食物調理の職業で約3.27倍、旅館・ホテルの接客係や居酒屋ホールスタッフなどといった接客・給仕の職業では約3.80倍と人手不足が鮮明になっています。
今、この人手不足の穴を埋めているのが、外国人留学生なのです。これらの分野では、留学生が外国人労働者の約6割を占めるほどにまで増えています。この5年間で倍増以上、といったところでしょうか。近年、居酒屋やバルなどでアルバイトする日本の学生をあまり見かけなくなっている。皆さんも、このことにお気付きではないでしょうか。

ここで押さえていただきたいポイントがあります。
表現はよくありませんが、法務省は、レストランや居酒屋等のホールスタッフを単純労働に従事する者とみなしています。単純労働者とみなされる外国人には、現行制度のもとでは、就労資格(就労ビザ)が与えられません。つまり、レストランや居酒屋等のホールスタッフとして働いている外国人の多くは、基本的には、単純労働者とみなされない留学生であります。留学生であっても、本体活動である大学・専門学校等において教育を受ける活動以外の活動として、レストランや居酒屋等のホールスタッフとしてアルバイトをするためには、入国管理局で資格外活動許可を受ける必要があります。つまり、例外的に認めているにすぎないのです(※しかも労働時間に制限があります。)。

数多くの留学生をもってしても、人材を確保できていない飲食店は少なくなく、人手不足に悩んでいる。人手不足だから、人材確保のために時給が高騰していて、さらに悩んでいる。もちろん、これが全てではありませんが、現状でもあることに間違いはないでしょう。

 「高度人材」・「高度専門職」とは

ところで、政府は、高度人材外国人の受入れを促進するため、高度人材外国人に対しポイント制を活用した出入国管理上の優遇措置を講ずる制度を2012年5月7日より導入しています。
では、「高度人材外国人」とは、どのような人材なのでしょうか。少し長い説明になりますが引用します。
高度人材受入推進会議報告書によると、「高度人材外国人」とは、「国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替することができない良質な人材」であり、「我が国の産業にイノベーションをもたらすとともに、日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材」とされています。イメージできましたでしょうか。

少し具体的にイメージしていただくためにも、高度人材が日本で行う(行える)活動を3つの類型に分類して簡潔に説明します。

[第1類型]
高度学術研究活動「高度専門職1号(イ)」
①日本の公私の機関(例:大学等)との契約に基づいて行う研究をする活動
②日本の公私の機関(例:大学等)との契約に基づいて行う研究の指導をする活動
③日本の公私の機関(例:大学等)との契約に基づいて行う教育をする活動

[第2類型]
高度専門・技術活動「高度専門職1号(ロ)」
①日本の公私の機関(例:企業等)との契約に基づいて行う自然科学の分野に属する知識・技術を要する業務に従事する活動
②日本の公私の機関(例:企業等)との契約に基づいて行う人文科学の分野に属する知識・技術を要する業務に従事する活動

[第3類型]
高度経営・管理活動「高度専門職1号(ハ)」
①日本の公私の機関(例:自ら設立した株式会社等)において事業の経営を行う活動
②日本の公私の機関(例:企業等)において管理に従事する活動

上記3類型に該当する高度人材と認定された外国人(在留資格「高度専門職1号」)には、いくつかの優遇措置が認められます。通常、外国人は、許可された1つの在留資格で認められている活動しかできませんが(例えば、在留資格「教授」→研究活動など、在留資格「技術・人文知識・国際業務」→通訳など、在留資格「技能」→調理師など)、「高度専門職1号」の在留資格を有する高度人材外国人は、例えば、大学での研究成果を生かして、研究活動と併せて当該研究と関連するベンチャー企業を経営するなど複数の在留資格にまたがるような活動を行うことができるようになります。その際、入国管理局へ資格外活動許可や在留資格変更許可の申請をして許可を受ける必要もありません。

また、「高度専門職1号」の在留資格をもって一定期間在留した外国人は、活動制限が大幅に緩和され、「高度専門職1号」の活動と併せてほぼ全ての就労資格の活動(例えば、通訳、調理師など)を行うことができる「高度専門職2号」として活動できるようになります。こちらの場合も、入国管理局へ資格外活動許可や在留資格変更許可の申請をして許可を受ける必要はありません。

■ 高度人材の限界?

政府が受入れを促進してきた(促進はしているものの現状は・・・。それはさて置き)高度人材外国人のイメージができたところで、お話を戻しましょう。この高度人材としての認定を受けたとしても、当該外国人の日本での活動は上記の通りでありますので、「高度専門職1号」の在留資格を有する外国人は関連する活動しかできません。

また、仮に「高度専門職2号」の在留資格を取得してほぼ全ての就労が可能になったとしても、高度専門職として位置づけられている内容(例えば、大学の教授、ベンチャー企業の社長など)の活動をし、それなりの給料・報酬をもらっている外国人が、果たしてアルバイト的・副業的に、例えば、調理師や通訳として働くでしょうか。全く無いとは言えませんが、あまり考えられないと思います。

これらの点を踏まえると、「高度専門職」という在留資格が存在することをもって、そして、「高度専門職」の外国人を増やすことによって、調理師や通訳などのサービス業で働く外国人を増やし、訪日客の急増に対応できるようにする、ということには基本的にならないでしょう。殆ど関係ありません。つまり、次元の異なる話しです。
したがって、別の仕組みでもって対応する必要がある、ということなのでしょう。そこで今回着目したのが、国家戦略特区であります。
(つづく)

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